たつて生活出来さうね。」
「自信はあるな。」
 百合子を相手にしてゐると滝本は、悩みも不安も綺麗に拭はれて行く爽快さを覚へた。松林を脱けて浜辺へ出ると、未だ、あたりは明るかつた。
「あら/\!」
 と、滝本の口を見て百合子は、笑ひながら顔を顰めた。「妾の口紅が、一杯そこに喰ツついてゐるわよ。――妾が吹いたのをそのまゝ使つたもので!」
「百合さんは紅なんてつけてゐたの? 随分お洒落になつたんだな。」
 滝本は、手の甲で唇を撫でながら何気なく苦笑したが、不図、胸の震えを感じた。

     三

 翌朝滝本は、堀口からの電話で起された。
「森さんの娘さん――いや/\、昨日の君の家のお客様は昨夜お帰りになりましたか?」
「百合子さんなら、居るよ。」
 それが何うしたのか? と云はんばかりに滝本は云ひ返した。
「森さんの方から、其方に百合子さんを探しに行つた人があつたでせう?」
「誰も来ない――だけど、何のために貴方は、そんなことを私に訊くんです?」
「ふ――ん玄関に錠を降し放しにして置いて、居留守をつかつてゐれば世話はありませんね。仲々、何うして、用意周到だよ。」
 堀口は、厭味な嗤ひを附け
前へ 次へ
全106ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング