て外の方へ涼みに出かけた。
「汽車にでも乗つて、日帰りが出来る処ぐらひにでも行つて見ようか。」
私が、そんなことを云つても周子は黙つてゐた。そして彼女は、わざとらしく欠伸などして私の反感をそゝつた。
「口の臭い人となんか何処かへ出かけるのは御免だ。」と、彼女は、取り済して呟いだ。
この間以来私たちは、それに就いての話は互ひにてれ臭さを抱いてゐるやうに一切口にしなかつたのだが、突然洒々と彼女からそんな言葉を聞くと私は、グツとした。
「…………」
「好い気になつてら!」
「何だとう!」と、私は唇を噛んで怒鳴つた。
「あなたは、自分ばかりを好い子にしたがると云ふ風な癖があるのね。良ちやんばかしぢやない、一体に誰の前でも、変な風に自分の妻をのけ者にするといふ風に、そして変に自分が他人に思ひやりがあるといふやうな思はせ振り……」
「何ツ、生意気なことを云ふない。さつきから癪に触つてゐたんだが、我慢してゐたんだぞ――」
「此方こそ……」
「キヽヽヽヽ。」と、私は歯ぎしりをした。「図々しい奴だ! 殴られるな。」
「殴つたりしたら!」
彼女は、怖ろしく血相を変へて私の顔を睨めた。
「言葉の通じな
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