れた時に私は、木槌で胸を打たれたやうに吃驚りして
「はアい!」と、思はず、相手に反感を覚えさせる程に太く返事した。
「居ります、居ります。」
さう云ひながら私は、慌てゝ小さなトンネル型の窓口に突きすゝんだのである。積つたばかりの雪の上を歩くやうに、厭にガクガクする膝骨をしつかり爪先きと踵で踏み応えながら、夫々の脚に注意深さを注ぎながら。
「直ぐに返事をして貰はんければ困るね、後がつかえてゐるのに。」
「はア、どうも――」と、私は、吻ツとしながら叮嚀にあやまつた。
「良ちやんは、二三日のうちに帰るんだつて?」
私は、そんなつまらない思ひを振り棄てるやうに首を振つて、新しく良子に訊ねた。
「どうしようかしら?」
「僕らが帰るまで居たら好いぢやないか、一処に帰らうよ。」
「えゝ――だけど?」
「もう飽きたかね?」
「飽きもしないけれど……」
周子が何も口を出さないのが私は、何となく気になつて無理にでも良子と話さなければならない気がしてゐた。
「ぢや、明日あたり皆んなで何処かへ遊びにでも行かうかね。」
「えゝ。」と、良子は、笑つて生返事をしながら立ちあがつた。――そして良子は、栄一を伴れ
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