」
「さうだ。――それにしては随分あすこの人は横柄すぎる。」
「忙しければ、何処だつてさうよ。」
「加けに云ふことが法律的の術語まぢりで、それが早くて/\、まるで叱られてゐるやうな気がした。この前に行つた時とは、人が違つたんだらう、あんなではなかつたもの。――奇妙に淋しイくなる気がした! 寒むウくなつて来る気がした、待つてゐる間、自分の、いやHの、……呼ばれるのだけを待つてゐる他には煙草の味もしなかつた、まるつきりのヌケ殻になつてゐる気がした、一体自分が生きてゐるんだか死んでゐるんだかわけの解らぬ気がした。」
「気がした――は駄目よ。気分の話は御免さ、稀に朝起きをしたんで居眠りでもしてゐたんぢやないの?」
「…………」
「でも阿父さんだつたら、気が短いからそんなに待たされたら如何だらう。」
「あそこに待たされてゐた人は皆な気をくさらせてゐたぜ、半日以上も待たされるんだからね。そのヤマザキといふお爺さんなんか、その前に一度来たことがあるんだが、何でもその、名前を呼ばれた時にうつかりしてゐて、忽ち帰つたことにされてしまつたんだつてさ。一二度呼んで返事がないと、直ぐに後廻しにされてしまふんだ
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