して、
「あゝ、どうも気分が悪くつて困つた。」と、急に陰鬱らしく呟いで、今の醜い発作的の滑達さを消した。そして、手の平に息を吹きかけて、
「くさくはないかな、口が?」と、云つて周子を見た。
「…………」
「憤るなよ、自分のことを云つてゐたんだよ、誰が、失敬な! 他人のことをそんな風に思つたりするものかね、健康な人にはそんな不安なんてある筈はないよ。」
「だから、あたし達は平気よ。」
「だからさア……」と、私は、二人の顔を等分に見渡して、だらしなく己れの言葉を否定した。……「自分では、解らないものなんだが、これ位ひ気分の悪い時には、多少自分にも解るんだ、斯うしてゐると――」
私は、病人のやうに弱々しい声でそんなことを呟いた。
さう云つても彼女等は、未だ互ひにムツとして頑固に反ツ方を向いてゐた。二人とも唇を屹と結んで、肩のあたりで静かに息をしてゐた。――私が、その様子を見てゐると彼女等は、
「何でも好いから此方を向かないようにしておくれよ。喋舌りたければ、そつちを向いて勝手に独りで喋舌つてゐたら好いぢやないか、お前の云ふこと位ひ何んなに毒々しからうと何だつて、誰がそんなことを気になんて
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