等の私から享けてゐる不愉快さなどは知らん振りをして、
「どうでえ、うまく当つたらう。」などと、小鼻をうごめかせながらにたにたした。
「何さ……」
さう云つて良子は、ツンと横を向いた、淫猥な親父を嫌ふ小娘のやうに、冷たく振り払つた。……厭に突ンがつた鼻だな、さつき思つたことは、ありやみんな嘘なんだ、嫌ひだよお前なんぞは! 余ツ程、自惚れも強いらしいな、チヨツ……私は、その取り済した白々しい鼻に、今日はまた夥しく胸の気持が悪い吐息をハアツと吐き掛けたら、どんな顔をするだらう――そんな途方もない光景を想像したりした。
「どうだね?」
「…………」
「良ちやんの横顔には、何か美しい……」
「まア……」
ほらほら、一寸と讚めると直ぐにあれ[#「あれ」に傍点]だうつかり傍へ来ると危いぞ――私、は気持の悪い胸をさすつてゐた。
「チエツ……」と、周子が強く舌を鳴らしたのに私は、酷く胸を打たれた。周子が其処にゐたのを私は、忘れてゐたやうだつた。彼女は、私の心が甘く良子に走つてゐるといふ風に認めてヒステリツクな眼つきをした。瞬間的ではあるが罪を打たれたやうな気合に私は、酷くどぎまぎして――素知らぬ風を
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