体私は、これに類する気の利かない失策を往々繰り返して来た性質だつた。私は、他意なく冗談を云つたつもりなのだつた。二人が笑つてしまふであらふことを予期して、云はば甘心を買つたのである。――また、暗に自分に対する周子のあの親切に報ゆる心もあつたのである。同時に今の一寸とした自分の不貞な空想を謝してゐるつもりもあつた。周子以外の者の前では、あの他合もない己れの不快な病らひに就いて話すことを恥ぢてゐた筈なのに、そして彼女にも自分のその心は解つてゐた筈なのに? どうして? 今! そんなことがこゝに公開されたのかな? 自分から先に何か話し出したのだつたかしら? それに違ひないんだらうがな? ――そんな鈍い焦噪から私は、どぎまぎしてあらぬ空想に走り、己れに関する彼女等の話題を糊塗せんがために、口走つたのである。――でも、あんまり云ひ方が甘味を欠き、毒々し過ぎたのかな? 憎態に冷たく、ぶつきら棒に響いたのかな? ……兎も角私には、彼女等の自尊心を傷ける所存は毛頭なかつた。
だが私は、彼女等の持ち続けてゐる白けた顔に接してゐると――此方こそ静かに、勝手な肚がたつて来るのに敵はなかつた。だから私は、彼女
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