意味はないんだよ、年寄りなどは往々そんな例を引いて処世上の戒め言に云ふ場合もあるらしいが、俺のは違ふのだ、実際上の、生理的な、積極的な病らひごとなんだから堪らないんだよう!」
 やつぱり自分の事が話材になつてゐたのか……と私は、気づいた時突然妙に上づツた口調で喋舌り出した。彼女等に、そんなことが荒唐無稽な瑣事に扱はれてゐるのに、一度は安易を感じ、また、未だそれが続いてゐたことを知ると、不満を感ずる前に酷くテレ臭くなつたのである。それで私は、故意に固くなに、意味だとか、処世上だとか、積極的だとかいふ言葉を挟んだ弁舌を弄し、笑はれてしまはうと務めたのであつた。と、彼女等は、聞いてゐないと思つた私が突然喋舌り出したので驚いたのか、返つて真顔になつて私の顔に視線を注いだので、一層私は、擽つたくなつて、
「まつたく自分では、はつきり解らないことだぜ。嘘だと思ふんなら各々手の平に試みて見給へ――良ちやんの口などはたしかに怪しい、周子の怪しいのは知つてゐる。」などと、心にもないことを続けて、二人の口を突らせてしまつた。
 周子と良子は、白けて赧くなり厭な沈黙を保つた。……私は、しまつたと気づいた。一
前へ 次へ
全78ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング