しい――」
「だつて、そんな馬鹿/\しいこと憤る方が間違つてゐるわ。」
「だから未だ憤つたことはないけれどもさ……」
「さうでせうとも……」
彼女等は、他の話の合間でも長閑に笑ひながらそんなことを云つてゐるのがきれぎれに私の耳に入つてゐた。
「でも困ることはない!」
「それア、随分……」
時に依ると、何んなことを云はれても私は、たゞにや/\してばかりゐる時がある、どんな失敬なことを眼の前で話されても決してふくれ顔もしない時がある――私にすれば、それには多少の理由もあるのだが、周子は、大ざつぱに私の気分をその様に二分して、その場合場合に依つて私に処してゐる風な私にとつては少し迷惑な態度を何時の頃からか執つてゐるらしかつた。だから斯んな時には彼女は、安心して放言してゐるらしかつた。それに今私は、別な想ひに走つてゐたので、彼女等のきれ/″\に聞ゆる会話は、私に関することではないやうに思はれてゐた。
「慣れば、怖い?」
「そんなに……」
「でもよ?」
「だつて、そんなことではまさか!」
――「まつたく、自分には自分の口のにほいは解らないものだぜえ! そのことは別段それ以外に何の……いや、
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