可憐気なところが一寸とあの[#「あの」に傍点]女に似てゐるな? ――(どうしてあの[#「あの」に傍点]女などと云つたのか私は知らない、まるで出たら目なのである。)……何かものを云ひ終る毎に軽く唇を噛んで、キヨトンと相手の顔を見るところが一寸と好もしいね、あまり自分を信じないといふやうな適度の柔かい風情があるね、それでゐて他人を強ひもしなければ、自分の説明などしないところも好いね、会話が止絶れても相手にもどかせがらせるやうな気分を起させないな。眼つきは明るく悧口さうだ、そしてあの相手の返事を待つ間に微かに首をかしげるところが何となく好いね……さうだ、この挙動はFに似てゐる――これはいけない、俺は、あの青い眼のFに怪し気な恋情を抱いたことがあるのだ。
「ほんとなのよ、良ちやん。」
「変なことを気にするのね。」
 良子は、殆ど興味なさゝうに点頭いてゐた。――私は、そんな話が早く終れば好いと思ひながら、彼女等のその扱ひ方が、私の自負と違つて軽いのに稍々気易さを求めた。そして別に、ひとりの思ひを続けてゐた。
「厭アね、」などゝ良子は、時々顔を顰めたりしてゐた。
「でも、厭だといふと憤《おこ》るら
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