ツ! 加けにだんだん図々しくなつて来る、眼に見えて。」
「いくらか違つては来るだらうさ……」
 普段は他人に対して変な調子の好さを持つてゐるが、昼もなく夜もなく部屋に閉ぢ籠つて呆然としてゐるやうな日が続いてゐる時には私は、他人と言葉を交して見ると余りに自分の言葉が不遜に放たれるのに、自分で一寸と驚くやうなことがあつた。
「機嫌かひ!」と、祖母は云つた。――「理窟もない時にふくれツ面をしてゐる奴は、馬鹿なんだぞ。……不平がある時は、普段よりも気嫌好くしてゐるのが当り前の人間なのだ。」
「何にもないんですよ。」
 さう云つて私は、笑ひ出して急に快活になつたりした。
「もう、直ぐに嫁を貰はなければならない齢が解らないのかね。」
「…………」
 祖母と父とが、私の結婚に就いての話をしてゐるのを蔭ながら私は知つてゐた。祖母達は、私の当時の怠惰が何かそんなことに起因してゐるのではないかしら? といふ風な疑ひを、可成り露骨な言葉で話してゐた。――この祖母は、五年前の春、私達の家で老衰病から高齢で死んだ。
「体にも毒だぜ。」
「そりや、……だから僕だつて、斯うしてゐながらも主に健康に就いての養生を考へ
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