さうに悦んだ。
「この次から、あまり長い間|放《ほう》つておくことは無し[#「無し」に傍点]にしようじやないか?」と彼は、真顔で卑怯な相談を持ちかけた。
「阿母さんは、出かけたの?」
「今朝早く――」と、周子は点頭いた。
私達が何処にも出掛けないといふので母は、毎年夏には一度は二郎と一処に旅行をするのが慣ひだつたが父が死んで以来ずつと遠慮してゐたので、前の日に私が留守を引きうけることを約束し、だから出発したのに、私は何となく意外な眼を輝かせた。母は、修善寺の温泉へ行くと云つてゐた。
「留守となると、また退屈……」
「何を云つてゐるのさ!」
「馬鹿/\しい。」
以前には私は、何時も進んで留守を引きうけたのであるが、今では如何程神妙に待たうとも何処からも家賃一つ入つて来ないのか――私は、「馬鹿/\しさ」を従来の習慣通りに斯様なありふれた不良性で裏づけたが、何か斯る野卑な不満以外に、晴れざる不味さが喉にからむ思ひがした。
……どうして俺は、またあんな昔の叔父の発狂後の罵声などを白々しく思ひ出したりしたのだらう、あの遊びのことならば近頃自分が斯んな状態に居て、主に口臭などに囚はれてゐるの
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