いて貰つてゐたの、叔父さんに?」
 私が妙な微笑を浮べて戻つて来たのを眺めて祖母は、感心してゐた。私は、たゞ何気なく点頭いてゐた。――私達があんな馬鹿/\しい遊びをしてゐるといふことは私は、到底他の人には話せなかつたので、勿論家中の誰も知らなかつた。それが、一層私の愉快な夢に奇怪な生気を与へてゐた。
 私は、意地悪るをする友達などに出遇ふと、ついこの間までは癇癪に触ると到底力では敵はないことは解つてゐても我無しやらに組みついて行つたが、何時の間にかあの空想で腹を肥し、不遜な自尊心を育くみ、秘かにあの夢を想ひ描いて満足した。――そして、またそんな恍惚の夢から醒めると私は、沁々と平凡な人間であることを嘆いた。多くのお伽噺の勇士の身を、まざまざと羨望して鬱陶しがつた。
 暫く祖母を相手に話し込んでゐるうちに私は、叔父のことを忘れてゐたのに気がつき、祖母の前は何気なさを装ひ、胸を躍らせて彼の部屋に来て見ると、彼は依然とした先刻の姿の儘で、昼間でも半分雨戸の降されてゐる部屋に打ち倒れてゐた。
 私が、にや/\と会心の微笑を湛へながら彼の顔をのぞき込むと彼は、切に注射を待つが如くに痛々しく眉を動か
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