の遊びに私達は飽きてゐた。彼の引き籠つてゐた間はそれ程永かつた。――この新しい遊びは、次第に発展して自ずと様々な不文律が生ずるやうになつた。即ち、一度び気絶したならば如何なることがあらうとも注射を施されぬ前には決して眼を開かざること。――必ず相手の隙を見計つて行ふこと。――乗ぜられたならば剣道に於ける勝敗の如く有無なきこと。立所に気絶すべきこと。――注射は相手の絶対の好意に待つこと。――名乗り合つて勝負をするのではなく何時如何なる場合であらうとも隙さへあれば乗ずべきこと、故に常に戦闘準備の必要なこと――等、外に数種。
別段相計つて決めたわけではなかつたが、斯様な掟が生じて、私達がそれを堅く守ることで一層私の興味が増してゐた。だから私達は、呑気な会話を取り換してゐる間でも常に油断なく相手の毒気に気を配つてゐなければならなかつた。
「ウツ、やられた。」
叔父の隙に乗じて私が、ハツと毒気を吐きかけると彼は、さも/\残念さうに斯う叫んで(これも規則の一つである。)、ヒクヒクと息を引き取るのであつた。その動作も彼は、時に応じて様々に演じた。或る時は、山崎街道で玉を喰つた定九郎もどきに、クルク
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