遊びをするやうになつた。(一体彼は、子供好きだつた。後に小児科医となつて相当に成功した。今は亡い。)
その私達の遊びは、技巧が自然に複雑になつた。私を何よりも悦ばせるやうになつた。
「よしツ、ぢや、今度は俺だ。」
彼は、さう云つてハアツと私の鼻に息を浴せるのであつた。(尤も私は、嗅いだ真似をするだけだつた。叔父の口は、ほんたうに臭さうな気がして私は、一度も彼の鼻の前で息を吸ひ込んだことはなかつた。)
「ウツ、やられた。」
私は、その前の彼の真似をして、さう叫ぶと同時にばつたりと倒れた。倒れてゐても私の胸は、面白さにわくわくとしてゐた。
「ふゝん、死んでしまつたな。――はて口程にもねえ、意久地のねえ野郎だなア。」
芝居通の叔父は、そんな声色をつかつた。それから種々と面白気なことを呟いでから、
「どれ/\、この儘にして置くのも可愛想だ、一つ日本一の大先生が注射を施してやることにしやうかのう。」など云ひながら彼は、指先きで私の何処でもを「チクリ。」と突くのであつた。すると私は、
「アツ!」と、云つて蘇生した。
絵を描いて貰うこと、お伽噺をして貰ふこと、汽車ごつこをすること――一通り
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