切りに手を打つてゐた。
「気狂ひの寄り合ひだ。」
「まつたく……」と、私は母と一処に呟いだ。
 終ひに彼等一同は遊廓へ繰り込んだ。母は、幼い二郎を伴れて里へ帰つてしまつた。二日経つても父が帰らないので私が、清の家へ行つて見ると父は其処で酒を飲んでゐた。二三日経つて、半紙位ひの大きさの土地の新聞に「愚かなる○○○○」といふ見出しで、名前だけは○○にしてあるが誰が見ても父と解るやうな罵倒が載つてゐた。平常の豪語にも似合はず父は、それが源因でもなからうが当分の間一室に閉ぢ籠つて蒲団を被つてゐた。父にも週期的にさういふ性癖があつた。祖父のことは知らないが父の弟のことなどを考へて見ても、私のそれ[#「それ」に傍点]は父系の遺伝であるらしい。――間もなく父は、近隣の旧交会から除名された。だがその頃にはもう元気を回復してゐて、日本人はもう相手にしないと云つて南洋の殖民事業を計画した。これではまた酷い失敗をした。……近隣の旧人は今はとうに離散してゐるが、どうして私の父だけは失敗の事業ばかりをしながら大した惨めにも陥らずに一代を送り得たか! いや、そのお蔭で、
「あそこの家も、今では一体何処に住んでゐる
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