なや、いきなり私の首に抱きついて悦びの接吻を浴せた。私が斯んな好意を彼女から享けたのは初めてゞあつた。
「妾、もうさつきから心細くつて仕方がなかつたのよ。」
と彼女は私の耳にさゝやいた。「あの先生は、たゞの変質者に違ひないわ。活動写真を撮るなんてことは皆な嘘ぢやないのかしらと思ふわ。だつて、妾を斯んなところに立たせて、踊らせたり、体操をさせたりして、自分は向方側で黙つて見てゐるだけなのよ。」
「技手は、今夜誰がやつてゐるのだらう。」
私が、それを務める時もあつたので訊ねると彼女は、
「そんなこと誰だつたか気がつきもしなかつたけれど……さつきから彼の人つたら、昨夜《ゆうべ》妾が酒場で灯りを消してから、何んな踊りを踊つたか、それを是非見せて呉れツて諾かないのよ。」
と情けなさうに述べたてた。私は、G氏が彼女の云ふやうな平凡な変質者だなどとは思ひもしなかつたし、だから、先生は決して娘ばかりに興味を持つてゐるわけではない、僕の酔態に就いてなどもこれ/\の関心を持つてゐると説明しようかと思つたが、今の彼女の言葉に私は強く胸を打たれて、
「そして踊つたの?」
と胸を震はせて訊き返さずには居
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