にのみ現を抜かして、悪魔に絞殺されかゝつてゐるのを感知して、バルザックその他の自然派の作物を読むことの忠告と、近いうちに共々に小旅行を試みようではないかといふ相談に来たのであつた。
 私は、それらの事を非常に賛成して、更に迷魂の盃を重ねた。そして、もう今日限りだと称して私は、ハインリッヒ・ヒルゼルの書中にあるファウスタスの、各国の朝廷を遍歴する冒険旅行談を試みたさうであるが、間もなく私は熱に浮されて、ボロ/\の部屋着のまゝで散歩に出かけた。呪はれた私は、二人の友達と何処で別れたのか更に記憶がなかつた。
「先生、私は迷魂と称ばれる銘酒を服用して、適度に酔うて来ました。間もなく私は自然派の作物を携へて旅行に出かけます。――今日は、お名残りです。」
 そんな夜更けでも未だ研究に没頭してゐるマイアム氏のスタディオを私は訪れてゐた。
「おゝ。恰度好いところに来て呉れた。ヘレンが助手になることを承諾して、さつきから仕事にとりかゝつてゐるところだよ。」
 云ひながらスヰッチを入れると、目の前のスクリーンに一個の人体が現れた。レントゲン光線の中に現れた、その人体はスパルタ風の体操を始めてゐた。
 マイ
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