ばじとうふう》だ。あまりBの様子ぶった態度が滑稽《こっけい》だったから、
「馬鹿な自信を持ってかえって不安の淵《ふち》に足を踏み入れぬように用心した方が好《い》いだろうよ。この弓をやろうじゃないか、腹の空《す》いた時の用心に――」
と、注意しようかと思ったが、振り向きもしないのでやめた。で僕は、弓なりにした剣の間から、敬うとも嗤うともつかぬウインクスを投げただけだった。
Cは、無言で、ポケットの中の球を金貨のようにジャラジャラ鳴らしながら、とぼとぼと行き過ぎて行った。
「さあ、これで俺はいよいよ俺ひとりの天地になった。――ベリイ、ブライト!」
僕は、薄明の彼方《かなた》に消え失《う》せる彼らの姿を見送って、丘の頂きで双手を挙げて絶叫した。
昼間は野山を駆け廻って糧食を求め、夜は炉傍《ろばた》に村人を集めて爽快な武者修業談を語ろう。僕は、「思惟《しい》の思惟」に依って橄欖山《オリーブやま》を夢見る哲学者を憐《あわ》れみ、ヂオヂゲネスの樽をおしている詩人を軽蔑《けいべつ》し、統一のための統一に無味無色の階段を昇り降りし続けている物理学生と絶交して快哉《かいさい》の冠を振った。そして彼
前へ
次へ
全30ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング