吊籠と月光と
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)いつの頃《ころ》からか
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)心地|好《よ》く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あの[#「あの」に傍点]
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僕は、哲学と芸術の分岐点に衝突して自由を欠いた頭を持てあました。息苦しく悩ましく、砂漠に道を失ったまま、ただぼんやりと空を眺めているより他に始末のない姿を保ち続けていた。
いつの頃《ころ》からか僕は、自己を三個の個性に分けて、それらの人物を架空世界で活動させる術《すべ》を覚えて、幾分の息抜きを持った。で、なく、あの迷妄を一途《いちず》に持ち続けていたらあの[#「あの」に傍点]遣場《やりば》のない情熱のために、この身は風船のように破裂したに相違あるまい。
僕の三個の個性というのはこうだ。
Aは、
「諸々《もろもろ》の力が上昇し、下降して、黄金の吊籠《つるべ》を渡し合う。」
いわば、その流れの呑気《のんき》な芸術家である。だからAは、その言葉をわれわれに残したあの中世紀の大放蕩《だいほうとう》詩人の作物を愛
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