かのように爽々《すがすが》しくなった。
 僕は名状しがたい嬉《うれ》しさに雀躍《こおど》りしながら、壁飾りに掛けてあるアメリカ・インデアンの鳥の羽根のついた冠りを執《と》り、インデアン・ガウンを羽織って(全くそんなことでもしなければ居られなかった、一体僕は馬鹿で、悲喜の現れが露骨で、例えばこの頃でも、おそらく生活には要がないにもかかわらずややともすると幾何や代数の解題を試みるのであるが、極《ご》く稀《まれ》に自力で問題が解ける場合に出遇《であ》うと、狂喜のあまり不思議な音声を発したりするのである。その声があまりに突拍子もなく大きくて、夜中などであると、わが家の熟睡にある同人連は夥《おびただ》しい迷惑を蒙《こうむ》り、翌朝それがために寝坊を余儀なくされ、そして僕は朝飯が待ち切れずに停車場の待合室へ赴《おもむ》いて汽車売の弁当を喰《た》べなければならなくなったりする。……で、今も、思わず歓呼の声を挙げかかったのであったが、咄嗟《とっさ》の間にそれに気づいて、辛《かろ》うじて口を緘《かん》したわけである。が、どうして、幾日も幾日もの鬱屈《うっくつ》の床で、光明に眼醒《めざ》めてじっとしていら
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