学者の弟子である。Cは、いつも悲しそうな顔ばかりしていた。なぜなら彼がいかほど熱心に多くの球を投げ出して、その落下状態を研究したところで、決してあの[#「あの」に傍点]科学者の発見に依《よ》る「落下の法則」以上の定理を見出し得ないばかりでなく、ただ徒《いたず》らに落した球を拾っては再び塔の上に昇り、また落し、注視し、また拾い――を繰り返すに過ぎなかったから。
或《ある》日この三人が、諸国遍歴の旅に出かけようという相談をした。どこへ行ったところでどうせこれ[#「これ」に傍点]以上のことはないというあきらめを持っている憂鬱なCは、厭々《いやいや》であったが、持物といっては金属性の球だけをポケットにして、饒舌《おしゃべり》なAや気難《きむずか》し屋なBと共々打ち連れて、先ず都を指《さ》して旅にのぼった。いうまでもなくこの三人の者は常々不和の仲で、途上で出遇《であ》っても碌々《ろくろく》挨拶《あいさつ》も交《かわ》したことのないほどの間柄なのである。
………………
これだけの緒口《いとぐち》を考えつくと僕は、急に愉快になって寝台から飛び降りた。僕の頭は梅雨期を過ぎて初夏の陽《ひ》が輝いた
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