するゆくたてを熱弁をもって吹聴《ふいちょう》した。
「御覧なさい。船は既にあの通りの花々しさを持って造られつつあります。『七郎丸』が海上に浮び出ると同時に、諸君は、これまでの共和生活を挙げてわれらの船の上に移して下さい。」
この演説を聞くと、一同の失業者連は手に手に携えているものを思わず高くさしあげて、
「嬉しいな!」
と叫んだ。
「はじめて解った。うちの人が、あんなことぐらいで悲しんだりするなどというわけはないと思っていたんですよ。」
と妻は胸を撫《な》でおろしながら僕の傍らに駆け寄って、
「その恰好《かっこう》はあなたにとても好く似合うわよ。誰も変になんて思う人はないでしょうから、平気でそれで働きなさいよ。」
といって胸に縋《すが》りついた。
「一体、その皆なの背中の袋の内には何が入っているのさ?」
僕が訪ねると、一同は生徒のように声を揃《そろ》えて答えた。
「米。」
「町へ行って、お米を買って来たのよ。」
――妻はマメイドと連れ立って酒を買いに行くことになった。
身軽だからというので二人を一緒に吊籠《エレベーター》に載せて、僕は、鍵を外しハンドルを執った。そして、徐《おも
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