む》ろに降って行く箱の調節をとるべくハンドルを廻しながら、
「たしか昨夜も、今朝もジャガ芋《いも》ばかり喰っていたかな。――道理で胸の具合が変挺《へんてこ》で、酒の利《き》き目が奇天烈《きてれつ》になったのかしら?」
 などと考えた。
 妻の口笛が、遠くに聞えた。
 部屋のうちは明るい談笑に満ちていてどれが誰の言葉やらも区別出来なかったが、誰かが誰かを、
「スリップス・ロップ!」
と嘲笑《ちょうしょう》したりしているのが、仕事中のエレベーター係りの耳に聞えた。



底本:「ゼーロン・淡雪 他十一篇」岩波文庫、岩波書店
   1990(平成2)年11月16日第1刷発行
初出:「新潮」
   1930(昭和5)年3月
入力:土屋隆
校正:宮元淳一
2005年5月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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