背にしていたことを先に述べて置こう。)
「今日は荷車を曳《ひ》いて町へ行き、あなたの本を大方売却しましたよ。」
「そいつは酷《ひど》い。あれらの書物は僕の生命についで――」
と僕は赤くなって詰問しようとすると、次のベルがなって、再び僕らはハンドルを執らせられる――と、Rが、蓮根《れんこん》や牛蒡《ごぼう》を抱《かか》えて現れ、
「あなたの時計を質屋に預けて弾丸を買って来ました。当分肉類の心配はありません。」
と申し立てた。Rは鉄砲の名手で、常々僕らを鳥をもって養っていた。
「ああ!」
僕は悲鳴をあげた。「あの時計がなくなったら僕は観測台の仕事が……」
「僕はガソリンを買って来ました。これで当分の間町通いにオートバイが使えることになりました。どんな類いのあなたの用事でも一時間以内で果せるでしょう。」
とHが、モビロイルのブリキ罎《びん》を僕の目の先に誇らかに突きつけた。
「そして、その資金は?」
僕は痛い胸を押えて眼を視張ったが、答えを待つ間もなく、次のベルで、
「兄さんだけが着物を持っていることもなかろうと相談して、……」
「その先は聞かすな。俺は悲しくなる。」
僕は弟に向って激
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