らに反感や不快を抱いている者があったら、今夜だけは失敬する。」
「お神楽《かぐら》の稽古《けいこ》の邪魔になって?……遠くから皆な見えたわよ。」
「どうしようか?」
と僕は七郎丸に計った。
「見られたら見られたで、決して臆するところはないよ。――降そう。」
 鍵《かぎ》を外すと、ゆるやかな音をたててエレベーター・ボックスが静かに降りて行った。
「御存知でしょうが、ひとりずつでなければいけませんよ。」
「六人も、で、大変じゃありませんか?」
「御遠慮なく――。乗り込む度《たび》にベルをおして下さいよ。」
 ベルが鳴った。
「オーライ。――それっ!」
と七郎丸が合図すると、二人は、至極もの慣れた動作で、
「ヘッヴ・ハウ! 捲け捲け! ヘッヴ・ハウ・ハウ捲け捲け」と掛声勇ましく、吊籠《エレベーター》を引きあげるのであった。
 最初に箱から現れたのは、登山袋を背にして片手に醤油らしいものの瓶や葱《ねぎ》の束などを携えているBだった。(B・R・Hなどの若者は僕の妻と弟の友達で其処《そこ》の僕の村の住居で共和生活を続けている同人である。次々のR・H・妻、そして弟らも一様に重そうなリュック・サックを
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