を突きあげているままの生人形に化していたのである。
ベルが鳴った。
来訪者だ。
「どなた?」と七郎丸が通話口に顔をあてて訊ねた。
「エレベーターを降して頂戴な。」
僕の妻の声だった。
ここの部屋は「係員以外の出入厳禁」であったから、係員である僕たちは部屋に戻ると縄梯子《なわばしご》を捲《ま》きあげておかなければならなかった。また荷物を携えている来訪者は、係員にエレベーターの下降を乞《こ》うのであった。
滑車に綱を垂らし、綱に木製の箱を結び、これを釣籠《つるべ》仕掛で、部屋の中から人力で捲きあげるエレベーターである。人力ではあるが、捲き上げの部所には大小二個の歯車がつけられ、大輪のハンドルを把《と》って捲きあげる具合になっていて、あたかも自転車の理に似て、機械は与えられたる動力の幾倍かの仕事能率を現すわけだったから、仮令《たとい》酔漢であろうともこのエレベーター係りは容易《たやす》く果されるわけだった。
「おひとり?」
「いいえ、大勢――マメイドさんも一緒よ、そこで出遇ったの。」
そこで僕は、七郎丸に代って通話口を覗《のぞ》き込んで唸《うな》った。
「どんな意味であろうとも僕
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