うちに急いで置かないと、後はかがり火だけじゃ仕事が出来なくなるからな。」
「そうですとも、お父さん、七郎丸の仕事なら私たちは昼夜の差別も知りませんよ。」
いろいろと僕は彼らの会話を想像していると、(ああ、僕は夢に駆られ出したのを自ら気づかなかったのか!)丸源の太郎、二郎、三郎を、眼ばたきをして見直すと、驚いたことには、その三人は、僕が、「国境の丘」まで見送ったところの、あの三人ではないか!――彼らは、旅の第一夜をあんな処であんな風に過しているのか。あのかがり火を村里の灯とでも思って慕い寄ったことなのだろう。
Aは、いまだに、「あれから、これへ」を口吟《くちずさ》みながら、それでも懸命に槌《つち》を振りあげている。Bは、炎《も》えあがる焔《ほのお》の傍らで時|外《はず》れにも弁当を喰っている。Cは、うつむいてばかりいるので仔細な顔は解らないが、物差《ものさし》を執って、一心に木片の寸法をとっている様子である。
「第一夜からして、あの勢いでは頼もしくはあるが、一言その労を犒《ねぎら》う言葉だけでも贈ってやりたいものだな。」
僕は三人の無銭旅行者のための幸福を祈った。しかし僕は祈るべき
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