な酒場《バアー》や、ダンス・ホールが東京にもあるかしら!」
「無論あるだらうよ。」
「伴れてつてよ。」
「よろしい――」
行先きのビルヂングに着く。
「おい/\こつちだ。梯子段なんてあがるんぢやないよ。このボタンをおすとエレベータアが降りて来るんだよ。」
「六階へ!」
「しばらく、K・M君。これからオペラを見に一緒に行かないか。それから……」
「何時までこちらに居るの?」
「面白いな、東京は――。このまゝこちらに住んでしまふのだ。」
「賛成だ。マダムは?」
「あたしも――」
帝劇の廊下で僕の妻は煙草を喫してゐる。これが昨日まで森の小屋でまつくろになつて飯を炊いてゐた人かと思ふと、僕は眼をしばたゝき、軽い皮肉を感ずる。
「鱒二さん達が、日本橋のG――何とかといふ、何でもその名前はイタリア語か何かで、細君がブツブツ云ふといふほどの意味なさうだが――そこで待つてゐるさうだから、オペラはこれ位にして、駆けつけて見よう。――大丈夫だ、決して酔はぬ。」
「それから、あなたと二人でダンス場へ行きませう。」
「その帰りに――だけど、そいつは、ちよつとの間皆に内緒にしておこうぢやないか、おれ達のダン
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