スはきつと時代おくれのものに違ひないだらうから、二三個所見物した後でないとおれは気恥かしいんだよ。」
「おすしを食べたい。」
「ではあの屋台店で食べよう。」「――ストツプ――タキシー。」
「ベレエとライタアを買つて下さいな。」
「よし/\。――一番安いのはいくら位だらう。」
酒場《バア》!
「まあ狭くて、薄ツ暗いわね。顔も碌々見えやしないぢやないの!」
「山の連中に手紙を書かなければならないんだが、何と書かうかしら、何だかおれは彼等が憤《おこ》つてゐやしないかといふやうな気がしてゐるんだが!」
「憤つたつて仕様がないわ。」
「でも――明日でも一寸帰つて来ようかしら。」
「帰りたいの?」
「あのね。」
と僕は妻の耳にさゝやいた。「昨夜僕は馬《ドリアン》の夢を見たんだが、連中が居酒屋で入りびたつて、ドリアンが空腹に堪へ兼ねて、食つてしまふぞ/\と叫びながら、鶯を追うて山野を駆け廻つてゐる……」
「センチ……」
とほき出して妻は横を向いた。
底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「西部劇通信」春陽堂
1930
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