の娘の肩を抱いて、
「さあ、これで――」
 と、三人は並んだが二人は、私が厭に武張つてゐて変だ、もう仮装舞踏会は終つた後のことなのだから、もつと/\打ち寛いだ姿を執つて貰ひたい、でなければ一処に並ぶのは厭だ! と、かぶりを振つて諾かなかつた。
 シノンは恋人を抱き、またその妹をも抱いて、別れの挨拶をしなければならないんだ。――「その姿を撮らう。」
 と云つて私が、二人を引き寄せようとすると、二人は赤くなつて逃げ回つた。誰かゞ、私が居酒屋の娘に怪しからぬ想ひを抱いてゐる、それで、せめてもそんな言ひがゝりをつけて抱擁の快を感じようとでもしてゐるに違ひない――などゝひやかすと、妻は幾分殺気立つて、
「何といふ厭な奴だらう、失礼な。」
 と笑ひながら、娘を己の胸に抱き寄せた。そして、皆はいち時に仰山な笑ひ声を挙げずには居られなかつた。私は、ちよつと具合が悪かつたので、空とぼけた顔をし、
「ほんとうに、笑ひ声の――こだまは、天狗の笑ひ声のやうだな。」
 と仔細気に首をかしげながら梢を仰いだ。
「もう一度笑つて見て呉れ――」と私が追求すると、皆なつまらなさうに黙つてしまつた。
 トロヤ戦争余聞、木
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