と気たゝましい歓喜の声を挙げました。そして、恰で逃げてしまふ生物を見出したかのやうに慌てゝ、
「ハリヤツプ/\! 見事な一株の、幸福の木を発見した。」
 と叫びました、森閑とした森に、その声が真に山彦の精に似て鳴り渡りました。私が、驚いて駆け寄るとフロラは、
「おゝ、妾は終に幸ひを見出した。」
 と、とても仰山な声を挙げながら、悦びに亢奮して私の胸に抱きつきました。
 で、私がフロラの指差す上を眺めると、二抱へもある程の樅の大木で、成程、遥かにそよいでゐる寄生木のある枝までは、目測凡そ二丈も昇らなければなりません。――私の両脚は全々感覚を失ひました。
「おゝ、勇敢なる騎士よ。」
 とフロラは真面目に叫びました。――「樵夫の家から縄梯子を借りてお出で。妾はお前の手が幸ひの木枝に触れるのを注意深く視守るであらう。お前が剪りとつて来る幸福の枝に妾は、二人の永久の幸ひを祈る最初の接吻を捧げるであらう。妾の勇敢な、より好き半身よ。ハリヤツプ/\。……光りを拾ふための梯子を……」
 私は夢中で縄梯子を運んで来ると、つぎ竿の先で辛うじて梯子の一端を「幸福を宿す木」が私達のために緑の翼を拡げてゐる
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