祝福された星の歌
“An episode from the forest”
牧野信一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)父親《ダツデイ》達の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あれ[#「あれ」に傍点]は、
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)働け/\の
−−
一
麓の村から五哩あまり、馬の背で踏み入る森林地帯の山奥――苔むした岩々の間を、隠花植物の影を浮べて、さんさんと流れる谿川のほとりに営まれた伐木工場の丸木小屋の事務所に、その頃私はアメリカ生れのフロラと共に働いてゐました。私達の夫々の父親《ダツデイ》達の共同の仕事だつたからです。たしか、私が、文科の大学生活を終へた同じ年のことで、何故か私は文学よりも、哲学に憧れを寄せはぢめて、身をもつて健やかな生活に、つまり、いとも花々しい労働に没頭することから端を発して幽遠な精神上の光りの国へ憧憬の翼を差し伸したい――そんな風な、云はゞエピクテイタス流の希ひに胸をふくらませて居りました。で私は、毎朝々々、頑固な目醒時計《ベビー・ベン》
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