を鳥共と一処に鳴らして、飛び起きると、働け/\の「森の鍛冶屋」の歌を口吟みながら、馬に乗つて朝霧の深い谷間を飛んで、斧の音の丁々と打ち響く伐採場へ走ります。空に唸りを巻き起しながら倒れて行く大木の倒れるのを眺めて、夢にもない朗らかな叫びを挙げました。鈴を鳴らして急坂を滑る橇に打ち乗つて、ブレイキを握りながら風を切つて、口笛を吹きます。夜ともなれば、終日の働きで爽やかな疲れを覚へた身を、炉端の、ランプを低く灯した小屋の窓下で、フロラに日本語を教へたり、読書に吾を忘れて、膝の上から書物が滑り落ちるまで現の遠い幻の国に遊びました。
 それはさうとして、いつの間にか夏が過ぎ、秋が暮れて――いつそ、このまゝ、今年のクリスマスは、この小屋で迎へようと語らふ冬となりました。ダツデイ達は、私とフロラの決心をまことに勇壮なものと認めて、ほのぼのとしながら山を降《くだ》りました。
 そこで、降誕祭の“on the one”が、麗らかな天気つゞきのまゝに目睫に迫りました。山に働く他の凡その人々はこの宗教に全く関心を持たぬ麓の部落の村人達でしたから、この師走のおしつまつた日のなかで、あの辺から来てゐる二人の学
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