生は何の戸惑ひをしてのぼせあがつてゐるのだらうか? などと囁くのを、しば/\フロラが、その故を説明などしながら、たつた二人で、花やかな祭りを催すために丸木小屋の中の飾りつけにいそしみました。――それにしてもあの人達、信仰は持たなくても、こんなに綺麗な祭りの悦びだけは迷惑ではあるまい、楽しい夕べが訪れたならば、サンタクロースには山番の老人を頼まうよ――。
「あの白髪のゆたかな、常に円満な微笑を湛へた呑気さうな山番は、普段のまゝでもサンタクロースそつくりだ。」
 フロラは、そんなことを云ひながら、カーテンをとりはづして袋を縫つたり、とんがり帽子をつくつたり、その忙しさと云つたらありません。
「いゝえ、その話を僕が昨ふ山番に告げたら、手を打つて悦び――そんなら、その袋一杯、わたしが森の土産をつめこんで、吃驚りさせてやりたいものだ――なんて大いに勇み立つて、さうだ、ほんのさつき、これと同じ位ひに大きいランチ袋をかついでから、橇を引いて出かけて行つたよ。」
 何んな土産であらうか、森の土産が、妾のスタツキングに入るかしら? フロラは、愉しさうな不安の眼《まなざし》をしばたゝいて、
「こんなに太く
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