でゐた。彼は、ハツとして、六ヶ敷しい顔に戻り、ワザとそんな者は眼中にないといふ風に白々しく口笛を続けた。と彼女は、一層鬱憤を助長されたかの如くに、ツカツカと進み寄ると、一寸冷い笑ひを浮べて、低い垣根越しに斯んなことを云つた。――「あなたの顔は、何だか変だわね。眼や鼻や口の大きさが、額の大きさに釣り合つてゐないよ。もつと顔のまはりが大きくないと、眼や鼻や口ばかしが先に眼立つたのさ、顔が細長過ぎる! 変だ/\/\!」
 そんな突拍子もないことを彼女は、云ひ終るがいなや、口上係りが立去るやうに遥か向方の木立の蔭へ消えて行つた。
「この頃、口返答をしなくなつたと思つたら、あいつ奴! 例の仇うちの方法を俺にも執つてゐたんだな! 肚の中で様々な人身攻撃を回らせては、秘かに溜飲を下げてゐやアがつたんだな。」
 彼は、まさしく仇うちをされた者のやうに唇を噛んでさう呟いたが、また、それにしても、あいつは、もつと/\沢山な俺に対する悪評の言葉を蔵してゐるに違ひない! などゝ思ふと、何とかしてそいつを全部聞きたいものだといふ気がして彼女の帰りが待たれるやうな、かと思ふとまた、厭なやうな――彼は、うやむやな焦
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