秋晴れの日
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)稀《たま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)朝夕|内外《うちそと》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ピシヤ/\と
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[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]

 彼は、飲酒があまり体質に適してゐないためか、毎朝うがひをする時に、腹の中から多量の酒臭い不快な水を吐き出した。前には、それは時々のことだつたがこの頃では、これが定めとなつてしまつた。そして、これも前には稀《たま》であつたが、この吐く水がなくなると、一層激しく、胸や腹が、空々しく、苦しく、ゲクゲクと鳴つて、それから苦く黄色い胃液を吐き出した。
 大体彼は、生来健康な質だつたから、どんな医学的の知識にも欠けてゐた。だから、初めはこれに随分驚かされて、洗面の後暫くの間は何時も精神的な鬱陶しさを強ひられるのが常だつたが、それも今ではすつかり慣れてしまつて、どうかした調子に中途で収まり
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