ひ出して彼女は、訊ねた。彼等は、彼のそれを「ゲー」と呼び慣れてゐた。
「あゝ、行くよ。」と、彼は答へた。そして彼は、済して「ゲーは、ジー・エイ・ワイだ、即ち Merry, lively, jolly, sportive」
「…………」
「うむ、さう云へはそのやうな名前の野球チームがある。」
「…………」
 彼女と良介は、別の話をしてゐた。彼は、口のうちで、あの野球団に俺も入会しようかな? などゝ聞えぬ程度に呟いた。文人の間に組織されてゐる野球チームなのである。
 Nは、とうに帰り、空がすつかり秋らしい色になつたが、運動と節酒をすれば直ぐに治る筈の彼の病気は、治つてゐなかつた。
 もう新学期が始まつてゐたが土曜日になると次郎は、活動写真を見物に泊りがけでやつて来るのが常だつた。
「また、来たのか?」と彼は、ふざけるやうに云つて、戯れに似せた苦い顔をした。
 酷い二日酔ひで彼は、縁先に胡坐したまゝ動くことも出来ない位ゐだつた。眼に触れる生物が悉く厭はしい――彼は、そんな風に己れの気持を誇張して、そのうちで自分が最も厭しいなどゝ思つた位ゐ気分が悪るかつた。
「少し散歩でもしていらつしやいよ、
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