島送りの少年悉く逃走す――ですつてさ。(引率の両氏が飲酒中船に乗りおくれて。) まアまア……」
「どれ!」と私も軽い興味をそゝられて、新聞を引き寄せた。――(……目下修繕中の六郷橋の渡しに手間取つたため横浜に着いたのは三時半となり、小笠原行きの近海郵船は定刻の三時に出帆した後だつたので引率の両氏は聊かやけ気味となり某料理店で飲酒中少年等は一斉に逃走す……)などゝ報じてあつた。
同じ日の午後の出来事だつた。――私は、二階の書斎に引き籠つて、寝転んで天井を眺めてゐた。周子が、疲れ切つた恰好で、そして非常に亢奮して私の傍に来ると、
「ヒデヲが何処かへ行つてしまつた。」と云つて泣き出した。私に聞かせまいと思つて、広小路までも逢初橋までも探したのだが如何しても見つからない、もうかれこれ一時間になる――と伝へた。
「あんな新聞を読んだからかな……」
私は、カツと取りのぼせて思はずそんなことを口走つた。
「そんなことはありません。」と周子も夢中で、真面目に首を振つた。「私は昨夜いやな夢を見た。」
「迷信は嫌ひだ。」と私は云つた。
私は、その儘飛び出した。空が好く晴れてゐるのが悲しかつた。――私
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