こんなに好く暴れたり、こんなに好く喋つたりするものかな。」
私は、彼の様子を沁々と眺めながらそんなことを呟いた。
「お酒に酔つても、これからはヒデヲの前では気をつけて下さいね、悪るふざけをしたりすると直ぐに真似をしますよ。」
「真似をされては、やり切れないな。」
私は、横を向いて苦笑を洩した。微かな圧迫を感じたのである。
自動車の遊びに倦きたHは、角力の四股を踏んだり、懸声だけ勇ましい出たら目の徒手体操を演じたりしてゐた。
「あれも、あなたの真似よ。」と云つて周子もぼんやりHの運動を眺めてゐた。「ゆうべだ/\、あなたが大変酔つて帰つて来て、あんなことをやつたのは……」
「あゝいふ真似なら、立派なものぢやないか。」
私は、内心酷くてれ臭さかつたが、顔つきは自信あり気に、太い作り声で厳しさうにうなつた。
「痩ツぽちの人に限つて、変な処で意張るわね。だけど、他家《よそ》へ行つていくら酔つたつてあんなことをするのはお止めなさい。愛嬌にもなりはしないわよ。」
「…………」
俺に取つては、自分の為にやるんだ、真面目なんだ――といふやうなことを私は云はうかと想つたが、あまり馬鹿気てゐるんで
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