「自分こそ!」
「ヒデヲは今に綽名をつけられるかしら。」
「不良少年だけよ、そんなことは――」
周子は、厭な顔をして横を向いた。
静かな晩だつた。私の一人の子である三才のHが、独りで切りに噪ぎ廻つてゐるより他には、あたりには何の音もなかつた。食膳の上に小道具を並べておくと、Hが乱暴で直ぐに破壊してしまふので、Hに手のとゞかない高さの安物の丸テーブルを備へて、私はそこで酒を飲んだり食事をしたりしてゐた。尤も、もう一つ理由があつた。一ト月程前に借りた家なのだが、畳が大分汚くて、坐るのが厭だつた。私は、吝嗇で畳換へをしようともせず、だが、さうとは云はず友達等が来ても体裁をつくつて、
「椅子テーブルの方が、具合が好い、だんだんに生活を洋風にしようと思つてゐるんだ。」などゝ云つてゐた。その癖私は人一倍行儀が悪くて終日寝間着を着通して、いつも椅子の上に胡坐をかいてゐた。
「寒くなつて来たから、障子を貼り換へなければなりませんね。」
「コーヤクを貼つて済しておけよ。」
「コーヤクぢや塞ぎきれないでせう。」
Hは、私達の周囲を自動車の真似をしながらグルグルと飛び廻つてゐた。
「三つにもなると、
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