返りを打つた。そして砂に顔を伏せた。
「木村、俺にもそれを教へて呉れ、貴様は素晴しく艶かしいことを知つてるな。」野島は木村の背中にかじりついた。「島田はあれを知つてるだらう、文科だから。」
純吉は、何の思ひあたるところもなかつたが、たゞ薄笑つてゐた。そんなことを暗誦してゐる木村を内心大いに感心した。
「飲んでおいで、飲んでおいで、ツと――おい皆なで合唱しよう。」と野島は太い声で音頭をとつた。その時誰かゞ、
「来たぞ/\。」と囁いた。
「うむ来た/\、木村々々。」と野島は彼の背中を叩いて、そして純吉に向つて「キレイになつたと云つたのはあのことだよ。」と教へた。
掛茶屋へ二人の派手な娘が、経木の帽子を圧へて駈け込んだ。娘達は直ぐに、脱衣場へ入つた。それを見極めると同時に突然野島は「ワン、ツー、スリーツ。」と号令した。すると円陣の者共は一斉に眼を瞑つて、砂に顔をおしつけた。
「おい、何だい、何の真似だい。」純吉はのけ者にされた不満を覚えて、それにしても怪しな思ひで野島に訊ねた。
「ともかくお前も早く斯うやれ。」野島はさうすゝめるので純吉も同じく砂に伏して、返答を待つた。野島は、こゝで口を
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