利くのをさもさも惜しさうにぴつたりと顔を砂に埋めた儘性急に説明した。――あの二人の娘達が脱衣場の中で、着物を脱いで水着を着終る迄の悉くの動作姿態を細大洩らさず沁々と想像するのだ――といふ話だつた。
「只今帯に手が懸り、着物に……」
「うむ。」「待つてましたア。」静かな吐息を窺つて各々そんな半畳を矢継ばやに投かけた。
「叱ツ、専念に/\。」と野島は重く退けて、耳を圧へて凝と五体の力を忍ばせた。そして「木村が一番参つてゐるんだよ。」と純吉にそつと囁いた。木村は耳の側まで顔を埋めてゐた。
 純吉も命ぜられたまゝに、凝と熱い砂に顔を埋めた。すると彼の眼蓋の裏には、みつ子の古い幻が彷彿として浮びあがつた。――彼は深い溜息をした。――だがまもなく彼の五体は幻とゝもに熱い砂地に溶け込んで、彼は恍惚たる夢心地に堕ちて行つた。さつきの木村の独白が、はるか微かな耳に、麗朗と反響《こだま》してゐるばかりだつた。

[#5字下げ]三[#「三」は中見出し]

 再び野島の合図で、円陣は一斉に乱れると各々まつしぐらに水を眼がけて駈けて行つた。二人の美しい娘達は既に彼等の讚美の声を意識してゐるらしく、嬉々としながら
前へ 次へ
全13ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング