仰山に熱い砂を踏んで渚へ走つて行つた。――男達は忽ち波の彼方に整列して、ワイワイと騒ぎながら見ごとな抜手を切つて進んでゐた。
純吉はひとり砂地に残つて、羨ましく彼等の運動を眺めてゐた。彼は夥しい因循な気持に襲はれてゐた。含羞まずに、一投足の労も執れぬ気がして、思はず亀の子やうに首を縮めた。――自分がたつた今罵倒したあの厭な文学々生が取りも直さず自分の姿である気がして、凝としても居れなかつた。もう明日から海へも来ないぞ――さう呟いて彼は自分の懶い書斎を想つて、変な安らかさを感じた。
「おーい、おーい。」
沖の連中は切《しき》りに手を挙げて純吉を呼んだ。その度に彼は身がすくんだ。あまり彼等が呼ぶもので水際の女が、純吉の方を振返つた。――純吉は、ふらふらと立ちあがつた。そして痩躯を躍らせて、その時稍大きな波が持ちあがつて渚の連中がワツと逃出したところを、彼はこゝぞとばかりに突進した、が忽ち波にくる/\と捲かれて、頭もろ共イヤといふ程砂地に叩きつけられた。
だが彼は、直ぐにはね起きて、次に持ちあがつた大波の底を目がけて、ピヨンと水の中へもぐり込んだ。もぐつた儘はるか波向うに進まうと思つた
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