もなく御勉強か?」
「無論勉強だよ。俺は君達のやうな不良少年ぢやないからね。」と純吉は云つた。
「ハッハッハ。不良でも何でもいゝから、ひとつ素晴しい恋がしたいものだ、ねエ野島さん。」
「うん、さうだア!」野島は拳を固めて、わざとらしく胸板をドンとたゝいた。
「おい俺が一つ芝居の科白をやつて見るよ、よく聞け。」木村はやをら立ちあがつて優し気なしな[#「しな」に傍点]をつくつた。屹度何か淫猥な事を演《や》るに違ひない、と純吉は想像して皆なと一処に眼を挙げた。
「黄金の羽虫、蜜飲の虫、どこからお前は来た? そんなに私の傍へ寄つてはいけない、お前は何を探してゐる? 私を花だと思つてゐるの、私の唇を蕾だと思つて。いけない。彼方へ飛んでおいで、森の中へ、小川の岸へ、菫、蒲公英、桜草、そこには何でも咲いてゐるよ、その中へもぐり込んで酔倒れるまで飲んでおいで。」女の声色《こはいろ》のつもりなのを、木村は朗々たる男声で歌ふが如く口吟んだ。「飲んでおいで、飲んでおいで、酔ひ倒れるまで……。あゝ堪らなく好いなア!」彼はさう嘆声を挙げると感極まつた如く麗かに四肢を延して天を仰ぎ、忽ち翻つてピヨンと鮮かなトンボ
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