学校に入つて沁々後悔してゐるよ、いや学校は知らないが、その文科の学生といふ奴が実にやりきれないんだ。」といつて純吉は一つ息を入れた。
「先づ第一だね、教室へ入るとプンとスエ臭い香ひがするんだ。」
「神経質か、よせよせ、お前が一寸怪しいぞ。」
「いや待つて呉れ――」純吉は慌てゝ手を振つた。だが一寸言葉が続かなかつた、そんな説明も面倒になつて、少くとも夏になつてあの空気から離れてホツとしたことをひとりで味はつた。さうかといつてこの海の連中が好きといふわけでもなかつたが、気易さだけが有難いと思つた。だが、文科の奴等は嫌ひだとか何とかいつてゐるものゝ彼等に勝つた何の心の取得が自分にあるのか、またこの海の連中に比べて何れ程自分は思慮深いか、両方の愚劣な個所だけを兼備へた、そしてその他にはたゞ彼等を上ツ面だけで軽蔑するといふ不遜な心しか持ち合せないのが自分なのか――純吉はそんな妄想に走らうとした鈍い神経を、慌てゝ吹き飛した。
「ところで島田はこの四五日どうして出掛けて来なかつたんだ。をとゝひあたりからとてもキレイ[#「キレイ」に傍点]になつたぜ。なア木村!」
「とても、とても! それとも島田は柄に
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