んやり海辺へやつて来た。海の連中は相変らず出揃つてゐて、もう二三回泳いで来た後らしく皆なまぐろ[#「まぐろ」に傍点]のやうに砂に埋れて、野蛮な雑談に花を咲かせてゐるところだつた。
「おい/\、死んだと思つた純公が再び現れたぜ、不景気な面をして――」野島といふ柔道二段の法科大学生は、純吉を見あげて朗かに笑つた。
「あいつまた恋愛でも始めやがつたのぢやないかしら。」さういつて野島と一処に徒らに笑つたのは木村だつた。木村は、今年もう一年遊んで来年から慶應の野球部へ入つて「ブリリアンド・ピッチャア」になるんだと力んでゐるスパルタ型の美男だつた。
やつぱり海へ来て好かつた――と純吉は思つた。
「何しろ純公は文科大学生なんだからなア。」野島はさういつて純吉をからかつたが、一寸真顔になつて、
「文科ツて奴は女にもてるさうだのう?」と木村に訊ねた。
「うむ、非常にもてるツてよ。お前も柔道なんて止しにして、ひとつ文学に志したらどんなもんだい。」木村はまぢ/\と野島の顔を打ち眺めて、煽動した。
「俺は文科の学生が一番嫌ひだよ。」純吉はさういひながら、彼等と同じ黒い褌をしめてその円陣に加はつた。「俺あんな
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