つま》る思ひがした。
[#5字下げ]二[#「二」は中見出し]
雨降れ、雨降れ――と純吉は希つたが、日毎に炎暑が増すばかりだつた。朝からギラギラと陽の輝く日ばかりが続いた。だが純吉は毎日欠かさず通つてゐた海を、三日ばかり続けて休んだ。
海の連中と他愛もなく笑ひ戯れることは厭でもなかつたが、それも考へると堪らなく退屈な気もした。心にもない快活を振舞ふことが一層自分を醜くする気がした。といつて彼は他人の前では、それを振舞はなければ、自分の愚図さ加減に堪らなく肚が立つのだつた。結局自分といふ人格は安価なピエロオである以外には何もない狡猾な昆虫のやうな人間である――そんなことを思つて彼は憂鬱になつてゐた。だから恋人は忽ち現れても忽ち此方を振り棄てゝ……あゝ、だが若き日に恋のないといふことは何たる悲惨な光景だらう……そんなことで彼は悶々と暑い日を書斎に寝そべつて打ち過した。そして思ふことは悉く下品な恥しいことばかりだつた。彼は、消えてなくなりたい思ひだつた。
どんなに行儀悪くふんぞり反つてゐてもやり切れない暑さで、純吉の気持はラッパのやうに筒抜けた。
彼はタオルをふところにおし込んでぼ
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