、清一が出て来た。
「やア、暫く。」純吉は努めて愛想よく微笑んだ。此奴拙いところに来やがつた――清一が自分のことを一寸さう思ひはしなからうか? 純吉はそんな邪推を廻らせた。
「姉さんが此間手紙で、君によろしくといつて寄越した。」
「あゝ、さう。僕からもよろしくいつて呉れたまへ。」さう答へて純吉は、よろしくとは一体何たることだらう、馬鹿気たやりとりだ、などゝ思つた。それにしても清一の口から自分の消息を聞いて、彼奴まだ相変らず口先ばかし元気なことを喋つてぶら/\まごついてゐるのか! みつ子がそんなに思ひはしないだらうか、などゝ純吉は想像して冷汗を掻いた。
「純ちやんは此頃家に遊びに来るかなんて訊いて寄越した。――だが此頃少しも遊びに来ないんだね、学校の方が忙しいの?」
「あゝ、学校はあまり忙しくもないがね、滅多に此方へ帰らないんだよ……」
さういつて純吉は思はせ振りに、卑しい笑ひを浮べた。
「面白いだらうね、東京の学校は?」人の好い清一は、学校へも行かず家の業を継いだ自分の身を喞つやうに寂しく訊ねた。
「なにしろ彼方に居ると友達が多いからね。」純吉は、そんな出たら目を喋つた。彼は東京には
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