せた。我儘でね……も何もあつたものぢやない、この子煩悩の愚かな母親奴! 純吉は肚でそんなことを思つた。
「斯んなに此方から行く時は食べ物ばかしを持つて行く……」
小母さんは笑つて、座敷の隅の品物を指差した。
「子供は?」
「いゝあんばいに大変丈夫ださうです。」
「みつちやんが、阿母さんになつたかと思ふと何だか可笑しいなア。」
「そんなことをいつたつて純ちやんだつて、今にすぐお父さんですよ。それはさうと学校は何時卒業?」
「未だ、未だ。」純吉は何の興味もなく呟いた。まつたく彼は、そんなことは大変茫漠とした謎のやうな気がして、そんなカラお世辞をいはれると煙のやうな頼り無さを覚ゆるばかりだつた。彼は、苦い顔をして泉水の水を眺めてゐた。――今迄は古いなじみの為か何の気にも懸らなかつたが、みつ子が居なくなつてからは、親類でも何でもないみつ子の母親のことを今迄通り小母さん/\なんて称《よ》ぶのも妙な気おくれを覚えた、さう思ふと此家に来ることも酷く面倒で、加《おま》けに小母さんと斯んな会話を取り交すのは何よりも退屈な気がしてならなかつた。
「やア失敬、暫く。」
湯あがりらしく艶の好い顔を光らせて
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